本書は、中公新書「物語の歴史」シリーズ一般のような、「物語」ではありません。内容的には学者の書く、ハードカバーの歴史概説書だと思います。それを新書で読めるのはお買い得ではあるかと思います。各時代の記載量も適度に均等に割り付けられており、古代、ドイツ騎士団が進出した中世、スウェーデンやポーランド、ロシアと争奪された近世、産業化が進展し、啓蒙思想や社会主義思想・運動が芽生える近代、三国がそれぞれ独立国家を形成した戦間期、ソ連時代、ソ連崩壊後、と通史が理解できるようになっています。
私が思う難点のひとつは、地図にあります。巻頭で、バルト海を囲む諸国全体の地図が掲載されているのですが、バルト三国の詳細地図は、本文中時代毎に出てくるだけで、本文中に何度も登場する地名の場所がなかなかわからない点。メーメルは1252年に建設された都市で、p34に初出し、そこでメーメルがクライペダの事だとの記載が出ているのですが、p35の地図には出て来ず、p61の地図で初めてクラペイダの名で登場する。p37で初出のドルパトはタルトのことであり、同じページの地図には「タルト」と出ていて、その前のp35の地図にドルパト(タルト)と出ている。更にドルパトはp52,p57,p104,p120と、頻繁に「ドルパト(タルト)」と出て来るので覚えてしまうが、メーメルの場合、地図にはクライペダとしか書かれておらず、ドルパトと比べると、場所が頭に入りずらい。ラトヴィアの語源となったラトガレは、p59の地図で登場し、本文でも地図でもラトガレ(ポーランド語でインフランティ)と出てくるが、その後しばらく登場せず、18世紀末の118ページ以降頻繁に登場することになるが、その頃にはラトガレの地図がp59にあったことなど忘れており、ラトガレがヴィチェフスク県にあることがp143でわって、ヴィチェフスク県がどこにあるかの地図はp111にあることでラトガレの場所を確認したりすることになった。ミタウにいたっては、文中に「ヤルガヴァ」と三度程括弧付で登場していたが、地図には掲載が無く、重要都市の筈のナルヴァも地図に無い。
これら難点は、冒頭に、本書でよく登場する地名を記載した、「バルト三国の詳細地図」を一枚つけておくだけで相当利便性が高まるものと思います。巻頭には独露ポーランド語と三国の地名対照表、巻末には年表、人名・地名の簡単な紹介まで着いているのだから、地図だけあと一歩という感じです(「
ポーランド・ウクライナ・バルト史 (世界各国史)」の最後の頁の内側に、地図と都市の各国語名対照表があります。まさに本書に役立ちます)。
物語というものはおおむね一度読めば大体頭に入るが、本書は何度も各所を確認するか、二度読むかしないと、地名に不案内な読者の場合、カタカナの羅列が続いているだけな印象となってしまい、なかなか頭に入ってこないのではないかと思う。とはいえ、読み物ではなく、歴史概説書として考えれば、これだけの内容を新書で読めるのはありがたいことだと思います。