ウクライナなる国、日本人にとってお世辞にも馴染み深いとは言えません。小生も、麦がたくさんとれる穀倉地帯としてのイメージしか持っていませんでした。国や民族の歩みについても、恥ずかしながら、ロシア人の亜流か何かでソ連崩壊のドサクサで分派したくらいの認識でした。しかしながら、著者によれば、ウクライナは独自の文化、長い伝統、そして国運隆昌の記憶に恵まれた大きな存在だということです。目からウロコという感じです。
さて、本書は、中公新書の物語各国史シリーズの一冊であり、著者はウクライナ大使を務めた外交官です。役人の書く文章というものは味も素っ気もないというイメージがありますが、外務省の皆さんは例外なのでしょうか、本書の語り口は明瞭にして平易、ウクライナの「ウ」の字くらいしか知らない小生でも、比較的楽しく読みすすめることができました。
内容的には、スキタイの昔から筆を起し、この土地を舞台とした民族と人々の歩みを概観しています。キエフ大公国の栄光、リトアニアやポーランドとの確執、コサックたちの独立不羈の危害と運命のペレヤスラフ条約、長くて過酷な異民族支配と戦争・内乱の悲劇、そして350年ぶりの独立回復など。
こうした歩みを概観してみると、そもそもウクライナは誰もが食指を伸ばしたがる豊饒の大地であり、人口的にも資源的にも、東欧において抜きがたい存在感を発揮してきたことが分かります。他方、それまでの大国的資質を備えながら、自らが一方の雄として立つことができず、近隣諸民族によって翻弄され続けてきたのは一体何故なのかと慨嘆せずにはいられません。国家の主権と独立を全うする上で一番大切なものは何か。そんな堅苦しいことを考えさせられる一冊でした。