本書は約360頁、序章・終章も含め全14章で旧約聖書時代から21世紀に至るまでユダヤ民族とパレスティナの歴史を辿る。そのうち第1章約20頁で国土を説明し、イェルサレムでの観測史上最高・最低気温は何度かといった地理の勉強もできる。残りは約四千年近い民族史に費やされ、様々なこと(例えばユダヤの祝祭日)をカバーするので、旧約聖書時代とツィオニズム運動(表記にこだわりがあるのも本書の特徴)勃興以後を除くと記述が平板なのが惜しい。例えば、ローマ帝国時代に関しては塩野七生氏の「ローマ人の物語」第8巻を読んだ人には物足りないだろう。ディオクレティアヌス帝の首都をコンスタンティノープルとする誤りもある。ビザンツ帝国時代に関しては井上浩一氏の「生き残った帝国ビザンティン」の方が諸勢力の興亡をより生き生きと感じるだろう。総合して本書はイスラエル・ユダヤ民族の百科事典という読後感を持つ。必要なことはすべて薄くはあっても書いてある。ただ、説明が時間順になっていない箇所がある、地図があってもそこにない地名・建築物が登場する、巻末に索引がない等、記述に改良の余地があるのは確かだ。
ツィオニズム運動誕生、現在のパレスティナ問題の原因となった英国の矛盾した政策、イスラエル建国、4度の中東戦争から和平プロセスの停滞に至る近・現代史は、これまで適切な本を読んだことがなかったので、興味深かった。例えばユダヤ民族郷土創設に理解を示した英国が、ウガンダを候補地として挙げたという事実には驚いた。英国は何を考えていたのだろう。そのような大国の思惑に翻弄されたユダヤ民族が「乳と蜜の流れる地」でアラブ勢力と平和に共存できる日が早く訪れることを願ってやまない。パレスティナの現状を大きな歴史の流れの中で理解するのに役立つのが本書である。