前半5章は上野動物園の百年史。後半2章は、野生動物減少など、様々な社会環境変化の中でそれまでの「娯楽施設としての動物園」からの脱却を求められるようになった現在の上野動物園の実践と挑戦とが語られている。
動物園関係者でもなく、上野にも特別な思い入れのない私には、正直、前半はさほど面白くはなかったが、後半、動物園に対して「域外保全」はもちろん、「域内保全」への貢献までが求められるようになった背景を理解するためには、前半の娯楽施設としての長い歴史との比較が有効だ。つまり動物園の役割変化とは、人間社会と野生動物との関係の変化に他ならないからである。
著者が書くように、上野動物園がこれからも真の「国民的動物園」として存続しようとするのであれば、今後の上野動物園が背負うべき使命の一つは、他でもない、動物園自身が自覚したこの社会的役割の変化を、今度は動物園から社会全体へと、積極的に発信・啓蒙していくことだろう。北海道の旭山動物園は“行動展示”で大人気だが、正直、その本来の導入意図(=単なる娯楽を超えた、飼育動物の野生性へのリスペクト)が、どれだけ理解されているかは疑わしい。むしろ多くのマスコミ報道を通じて、旭山動物園の“行動展示”は既に単に、「動物園の新しいアトラクションの一つ」として、消費されてしまおうとしているのではないか。
この現状を打ち破って「動物園=娯楽以上の場所」であることを高らかに示すべきは、やはり日本においては上野動物園以外にはない。著者はあとがきで、
>私は動物オタクであり、動物園オタクである。
と書き、さらに、
>還暦を過ぎ、本性を隠すのも億劫になり、堂々と「我輩は動物コレクターである」と宣言したくなった。
と告白しているが(笑)、それだからこそいっそう、これからも引き続き、動物園の新しい役割の発信に力を入れていただきたいと思う。
なお、21世紀にあるべき動物園の姿をより深く考えたい向きには、文春文庫『
動物園にできること』をお奨めする。本書と併せて読むと良いだろう。