アイルランドについて広範な歴史知識を提供する好著。周知の通りこの国は歴史的に隣の政治大国イギリスの影響をまともに受けてきた。しかし「イングランド」から「大英帝国」へ発展する過程で従属した同じケルト系のスコットランド、ウェールズと異なり「北アイルランド問題」という宿題を抱えつつ、この民族は独立を勝ち取った。互いに切っても切れない腐れ縁のことを「唇と歯のような関係」という。まさにこの両国のためにある言葉である。イギリスの大国化の過程の認識なしに「アイルランドの悲劇」の理解もないし、イギリス最初の「植民地」であるアイルランドの認識なしに「大英帝国の栄光」の歴史の理解もない。従って本書はアイルランド入門書であるが、当然イギリス史の知識を前提とする。逆に言えば今までのイギリス史は、アイルランドを不当に軽視してきたのかもしれない。隣国イギリスを正確に知るためにも「アイルランド」という新たな視座を与える本書は役立つと思う。