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『百年の孤独』、『族長の秋』などで知られるラテンアメリカ文学の巨人ガルシア=マルケスは、映画脚本にも手を染めている。その彼がキューバにある映画学校で、脚本家やその卵、映画監督たちと交わした議論を活字化したのが本書。自在に交わされる対話を追ううち、読者は物語の誕生と変質という摩訶不思議な瞬間に立ち会うこととなる。
ディスカッションはおおむね次のように進行する。テレビドラマ化を念頭において、生徒ひとりひとりがストーリーを披露、これに対してガルシア=マルケス(愛称の「ガボ」で登場)やほかの人々が意見を述べ、検討を加える。このプロセスを経るうち、物語はしばしば思わぬ方向へ変化していく。たとえば、バイオリン奏者である夫の挙動に不審を抱く妻が、彼の正体はテロリストだと知るストーリーのはずが、ふとした拍子に彼女のほうがテロリストという設定になっている。または悲劇のつもりで進めていたラブストーリーが、いつの間にかコメディーとしてまとまることもある。
この議論を導き、精彩を与えるのはやはり「ガボ」である。提示された物語を糸口に独自のイメージをあふれさせ、惜しげもなく皆の前に投げ出す。かと思うとユーモアたっぷりに生徒を刺激し、ときには創作の本質に触れる言葉を口にする。巨人の存在感に今さらながら圧倒される思いだ。
この教室で議論され、練り上げられるのは単なる紙上のストーリーではない。まさに、生れ落ち、成長していく生きものなのだ。じつは、それこそが物語の本質と言えるのかもしれない。ガルシア=マルケスの愛読者のみならず、物語に魅かれるすべての人に本書は開かれている。そして人間に物語が与えられた喜びを、あらためてかみしめることになるだろう。(大滝浩太郎)
日経BP企画
著者は中南米を拠点に、小説や脚本を書く著名な作家だ。同書は、著者と中南米の若い脚本家10人が、30分間のテレビドラマを作る様子を描く対話集で、それぞれの案を参加者全員で物語に練り上げていく。議論の途中で誰かが放った一言が、脚本をガラリと変えるのが面白い。彼らの手にかかると、いとも簡単に優しい妻が殺人犯に、笑い話が悲劇に変わってしまう。
中でも字面を突然、生き生きとした映像として浮かび上がらせる、著者の発言に圧倒される。彼が自分を「天性の語り部」だと言うのもうなずける。
各参加者は独自の手法を持っており、簡単には自分の主張を譲らない。個性豊かな彼らのやり取りのお陰で、同書は物語の作り方のみならず、会議の進め方の指南書にもなっている。
(日経ビジネス 2002/03/18 Copyright2001 日経BP企画..All rights reserved.)