「牛を球と仮定します」というJokeをJokeのままで終わらせないのが、この著者の非凡なところ。本質を掴むために大事でないところは斬り捨てようとする態度が、物理屋さんに必要とされるところで、この仮定により本質がクリアされるところ(なぜ牛のサイズが限りなく大きくできないか?)を読むと、この本を読むのを止められなくなります。(多少の物理のバックグランドがあった方が読みやすいことは確かですが)
今、世の中ではミクロ-メゾ-マクロの現象を説明する各理論(物理/化学~高分子~計算材料学といった領域をまたぐ、interdisciplinaryな学問領域)を如何にうまく繋げるかという話が、昨今のナノサイエンスの流行で浮上してきています。(いわゆるMulti-scale Method) そのような潮流の中でも、この本の著者の主張は忘れるべきではないでしょう:物理理論は本質的に「有効理論」なのであって、「問題とするスケールで何を予測するかを知るためには計算を行なわなければならないが、その計算のためには、小さいスケールで起こるかもしれない現象の影響を無視する必要がある」ということを。確かに野茂のフォーク・ボールが曲がる現象において、原子・分子の量子理論は必要なく、せいぜいボールの密度を決定するパラメータに押し込めることができる、というセンスはいつの時代でも重要です。こういう「スケール感覚」に基づく近似のセンスは、昔の人の方が大胆だったかもしれません。(今は計算機+ソフトがあるので、計算すりゃ何か出るだろうと、何でもかんでも計算してしまおうとしてしまいがち。)
モノを見るスケール(距離・時間)を小さくする程、真空は真空でなくなる話をはじめとして、素粒子物理~凝集系物理~宇宙物理まで数式を殆ど使うことなく平易に説明するところは圧巻です。