午前さまは毎日、金遣いも荒い。そうかと思うと、突然に定時に帰宅し、園芸に没頭しはじめる。晩年は、薬物中毒に陥り、自殺ともとれる死に方をする。私人としての父親は、ひどく理不尽な存在である。その姿は、実生活と精神生活とのギャップにジレンマを感じながらも、家族のため、企業のために生きていかざるを得なかった、戦中戦後の父親像を浮き彫りにする。
父親を追う著者の視線は徹頭徹尾、冷ややかだ。ある時期から父親に対して「心のシャッター」を下ろし、「実はそのシャッターはいまだにおりている」と吐露する著者の心情ゆえであろうか。それとも、小説家としての客観的な目が、息子としての愛憎を、無理やり押さえ込もうとしているからだろうか。しかし、そうしたなかに挿入される「父親の死に対して完璧に無罪な息子など、この世には存在しない」といった文章などが、著者の決して冷めてはいない心の内を浮き立たせてもいる。
本書は、父親と対峙する息子の姿を描いた私小説ととらえることもできる。物語の終盤で、父親の挫折の象徴である「昼月」に向かって歩きだす息子の姿が、印象的である。(中島正敏)
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