歴史とは多面体であり、一方向から全ての真実を把握するのは難しい。
本作は勝者アメリカ側から見た、もう一つの「硫黄島」だ。
物語は記念撮影用に星条旗を立てた3人の兵士が、帰国後政府によって「英雄」に祭りあげられ、戦争の資金集めとプロパガンダに翻弄されていく人生を描いていく。シニカルな抑制の利いた演出で、安易な反戦映画になっていない所がいかにもイーストウッドらしい。「ミリオンダラー・ベイビー」でもイーストウッドと組んだポール・ハギスの脚本は、時間軸が前後するためやや戸惑う所はあるが、総じて完成度は高い。初監督作「クラッシュ」の手腕をみても、もはや現在のハリウッドを代表する脚本家の一人に違いない。
それにしても92年の「許されざる者」以降、クリント・イーストウッドの演出は、まるで熟成した高級ワインのようだ。
「ミスティック・リバー」「ミリオンダラー・ベイビー」「硫黄島からの手紙」そして本作と、クオリティの高い監督作を連発している。「ダーティーハリー」の頃には誰が現在の偉大な姿を想像できたろう。
これからも傑作を世に送り続けてわたしたちを感動させてほしい。そして、健康に気をつけて可能な限り現役でがんばって欲しい。「硫黄島からの手紙」で誠実に日本を描いてくれた感謝と敬意を込めて、そう願わずにはいられない。