最初に読んだとき、掃除や接客など事あるごとに娘を厳しく躾る幸田露伴のことを
「なんとイジワルなジジイだ」と憤慨しながら頁をめくっていた。
そして、そんな父に耐える文を典型的な戦前の「女性」像として見ていた。
今ならそんな風には読めない。
露伴の厳しさは、波風を立てないことが美徳となってしまった親子関係において
自らの身を以て文子に教えようとする「熱い父」で、文子もただ耐えているのではなく、
その父の言葉行動をひとつも漏らさずにみずからに取り込もうとするが故の
受け身の体勢だったのだ。
ときにはふとその緊張関係が解ける瞬間のユーモアがなによりも効いてくる。
どうしても露伴の看取りが主題になりがちだが(そしてその姿勢は何年か後の自らの
問題の指針になることは間違いないが)、
その他の部分にも心に響くことの多い名作である。
特に研ぎ澄まされた文章力は幸田文の著作でも群を抜いているように思う。