学生のころ読んだ一冊です。「ニヒル」という概念は一種の虚無感とは思いますが、シニカルとも微妙に異なり、悪意は基本的にないものと思います。
古い体質、体制、価値観・・すべてに懐疑的になり、このバザーロフは科学的な分野にのみ生きる道を求めようとするわけですが、意外なほど、彼の精神の中枢には、豪放な父親の素朴な愛情や、迷信にうろうろする可愛い母親の愛情が根を張っているのでしょう。バザーロフの父親のセリフに、「あと20年もすれば、お前たちの術(すべ)も古臭いと言われるようになるさ」という言葉がありましたが、言い得て妙です。私には2人の息子がいますが、特に上の子はドストエフスキーが大好きで、私が30年前に読んでぼろぼろになっている文庫を、後生大事に読んでおりました。世代はめぐり、めぐるものですが、人間の営みというのはある意味で蝸牛の歩みのようであり、改革といったものはこけおどしに過ぎないのかもしれませんし、またそうであってこそ、親は何かを子に語り、子は何かを受け継ぐのかもしれません。30年たち、若さに正直だった頃に比べ、老眼鏡なしでは何一つ読めない情けない体にはなったものの、このような時間の流れを体験できたことに感謝します。農奴ひとりひとりにさえ愛情を掛けて書いているツルゲーネフの筆致は、世代を超えて読み継がれる不朽作品として、最高です。