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一見したところ無造作に主人公の行動を記述しているようでいて、読了した後に振り返ってみると、実は、かなり周到にエピソードを選択し、配列していることが了解される。
もちろん、表紙の写真や、そもそも「熊の敷石」というタイトルにしてから、ある種の計算を抜きにしては出てこない代物で、このように洗練された文章を読むと、ため息がでる。
今までどちらかと言うとエンターテイメント分野(特にミステリ)中心だった傾向がガラッと変わりました。氏のエッセイとも小説とも判別しにくい作風がなんとも心地よいのです。氏の著作を読むと「教養」と云うものに対しての信頼が回復される様に思います。アアこういう精神世界もアリなんだと感じます。氏の著作から巨大な智(知)の世界を垣間見ることができる様にも思います。文庫に収められ同じく芥川賞作家の川上弘美氏の解説を読みたいために再度購入してしまいました。
「なんとなく」な相互理解に基づく人間関係に灯されている「貝の火」を大切にする「私」は、人との間には「触れることのできない距離を要請する」ものがあることがしっかりと分かっている。そうした主人公が描かれているこの小説はそれ自身が、触れることのできない距離感と、ぬくもりを残す「貝の火」を与えてくれるような、そんな不思議な読後感を持っている。
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