石川淳の数ある作品のうち,たまらなく大好きな作品が連発された時期があります。
それが昭和21〜22年(1946〜47年)の戦後直後に執筆された作品群です。
この頃執筆された短編は,奇跡的なまでにすべて素晴らしく,本作品集には,ここから
「焼跡のイエス」「かよい小町」「処女懐胎」の3作品が収録されています。
(ほかに戦前の作品として「山櫻」「マルスの歌」が,昭和24年の作品「善財」の三作品が収録されています。)
この時期の他の作品は,同講談社文芸文庫の「黄金伝説」に6作収録されています。できれば同じ雰囲気をもつ一連の作品集として一つにまとめていただきたかったと個人的には思っています。
石川淳の作品を読む楽しみは,なんと言ってもその文体の妙にあります。
マルケスのように一文が非常に長く,ある作品では一ページの半分が一文であったりするのだけれど,それが音楽のようなリズムがあり,流麗で生き生きとし,かつユーモアも潜んでいて,読んで非常に気持ちが良い。
執筆時に何度も音読してリズムを確かめて書かれたものだと何かで聞いたことがあります。
昭和10年以降に執筆された作品(本作品集では「山櫻」が昭和11年の作品)からこの文体が確立されたように思いますが,
石川淳の文体に初めて触れたときの感動は今でも忘れられません。まさに衝撃でした。
戦時中思うように執筆出来なかった思いが爆発するかのように,戦後直後に書かれた作品たちは,何かキラキラと輝いて見えます。
終戦直後の町や人々の雰囲気が石川淳の文体によって目の前に浮かび上がり,それでも生きていくんだという勢いを感じます。
町田康が好きな方,結構石川淳もいけますよ(雰囲気が似ています)。