小池真理子氏の本は大好きで、しかも今作は「DVを受けた女性が新しい人生を切り開いていく物語」と聞いて、期待して読みました・・・が。
残念ながら期待外れ。
展開が都合が良すぎる。
DVを受けた妻が夫から逃げ出して見知らぬ街に住みついて、
そこに顔見知りの同じく逃亡中の男性がいて、当然のように結ばれて・・・って、
作中の台詞にもあるように「安手のドラマみたい」。
DVを受けた女性・DVをする側の男性の実態にも、真に深く迫っていない。と強く感じました。
何というか、DVに対するイメージやデータだけで書いた描写みたいでした。
実際は、DVをする側は、その人がいないと生きていけないかのように被害者に思い込ませ、感情的・精神的に被害者を
コントロール下に置きます。被害者にとってDV加害者は、単に「自分に恐いことをする人」というだけでなく、
その人にすがらないと生きていけないようにされているので、DV加害者に依存していくようになり、
自尊心や自立心・気力を奪われ、DV環境から簡単に抜け出せず、泥沼の中で苦しみます。
本の中で描写されているより、もっと複雑で深い心理的な葛藤や苦しみが被害者にはあります。
だのに、その点があんまりリアルに書かれていない。
小池氏は某女性週刊誌のインタビューで、「自分で考えて生きる主人公にしたかった」と語っていましたが、
この主人公は、そのような人物像として描かれていたかな?疑問に思いました。
どちらかというとこの主人公は、問題や苦しさを自分の力で「考えて」向き合って生きていくというよりは、淡々と「流れるように」生きていくタイプだと思います。
加えて、せっかく、主人公をお手伝いさんとして雇う高齢で独身の女画家という、人生のペーソスを感じさせられるような
面白い脇役を配しているのに、ストーリーに効果的に生かし切れていなくて勿体ないです。このお婆さんの存在が、
主人公の人生にとってどんな意味があったのか、もっと書き込んでほしかった。
他にも、タイトルにも使用されている「無花果の庭」や、老画家と詩人との秘められた恋などの、
ストーリーの中の小道具が活きていない。
主人公の母と姉との関係が殆ど触れられていない点(どうして主人公は夫のDVの被害下にあるのに、自分の肉親に助けを求められないのか。
そこをもっと書き込めば、主人公の孤独がより明確に浮き彫りになったはず)など、もう一歩踏み込めばもっとリアルに主人公像に
肉薄できたのに、全体的に書き込まれていない「余白」の部分が多すぎて、残念です。
筆力がある作家さんなので、読者を最後まで「読ませる」ことは出来るし、それなりに面白く読めるとは思います。
ただ、実際に現実の世界でDVを受けている被害者や、辛い思いをしている女性が
本から真剣に何かを掴もうとして読むと、本書の内容の踏み込みの足りなさとリアル感の欠如に、すごく物足りなく感じると思います。