江戸時代、経済的・社会的・政治的事情があって生まれ在所にいられなくなった者達が全国から江戸に流入した。本書は、人別帳に名がないためきちんとした職に就けず、共同体からの保護も受けられない彼ら「無宿人」達が、呻吟しながら生きてゆく様を描いた連作短編集。彼らは治安を乱す不穏分子とみなされていたので、何かあればすぐ役人に引っ立てられて伝馬町の牢屋敷にぶちこまれ、さらにそこから石川島(人足寄場)や佐渡(金山)や八丈島に厄介払いされた。本書ではこれら地獄の一丁目の実情について非常に詳しく描写されており、それぞれに、想像を絶する悲惨な世界であったことがよく分かる。
現代で無宿人に当たるのは、難民をはじめとした無国籍者だろう。地球全体が主権国家の割拠体制となっていて、いずれかの国民として生きていれば、最低限度の社会保障や軍・警察による安全保障にあずかれるが、そうでなければ、いつどこで野垂れ死にしようと一顧だにされない。無宿人が「江戸制度の谷間」であったように、彼らは「主権国家体制の谷間」にいる。