著者の大野景範は、故川内康範の唯一の弟子として行動を共にする。そして、「月光仮面」や様々な昭和歌謡作品、映画などを次々と生み出していく。
昭和20年代から30年代の情景と芸能界という華々しい世界の裏で、自分たちだけではなく、日本中の人々の戦争の傷をいやすがごとく創作活動を続けていく2人の青年たち。
その清々しさは、平成の今にはたして存在するのだろうか?
世界大戦と敗戦という今では想像もできな強烈な体験を潜り抜けた戦後の昭和は、すべてが傷つきながらも、こんなにもエネルギッシュで温かかったのか。高度成長以降の閉塞感が充満していた昭和しかしらない僕にとって、それは楽しい発見だった。
本書には例の森進一と川内康範の「おふくろさん騒動」の顛末を想像させる表題がついているが、実際に読んでみると、騒動の表層的な出来事にではなく、川内康範と著者が、「おふくろさん」に注いだ心情の核心が綴られている。そして、それは、結して露骨ではなく、むしろ昭和当時のすべての日本人が持っていた厳しくて温かい、生きるためのメッセージだった。
実は、少々のゴシップを期待していたのだが、実際には骨太な青春記だった本書を読み終わり僕は、すっきりと満足してしまった。