臆病で取り柄のない7歳の少年・太郎左衛門が、
“男気”を学ぶために火消しの頭に弟子入り。
そして火消し一家に出入りしながら、一家の揉め事や行事に関わって行くのだが、
少年の成長というより、武家の坊ちゃんと火消し一家とのちぐはぐな関係が面白い。
あまりにも情けなく、しかしとても礼儀正しい坊ちゃんと、
気性は荒っぽいのに、あくまでも武家と町民の身分をわきまえた言動に徹する火消し一家。
読んでいて気分が滅入ることもなく、ほのぼのとした時代小説で、
宇江佐さんらしい味を出している。
作中に登場する男たちの何人かは、
皆それぞれに小説世界を彩り、それぞれの生き方を貫きながら、やがて命を落としてしまう。
しかし太郎左衛門はぼんやり生きているようでいて、それなりに成人し、それなりに人生を歩んで行く。
だからこそ“無事是れ名馬”なのかもしれない。
この小説は、続編ではないが『春風ぞ吹く−代書屋五郎太参る』にリンクした作品である。
なんとすれば、太郎左衛門は、春風〜の主人公・村椿五郎太の子。
今作の中には、五郎太やその母・里江、ヒロイン・紀乃らも登場するので、
宇江佐ファンとしては興味深い。
「この親にしてこの子あり」とも思えるし、「あの青年がこんな親に」とも思える。
できれば、春風〜を先に読んだ方がリンク性を楽しめると思う。
春風ぞ吹く―代書屋五郎太参る (新潮文庫)