『無から出た錆』というタイトルは、前作『殺風景』から約二年リリースのなかった期間を「無」、完成した作品を「錆」と自嘲して呼んでいるわけだが、とんでもない、内容の充実ぶりにおどろく。
冒頭の『長い話』は、17歳から22歳の自分をたんたんと振り返る。「あのころはよかった」という感慨にふけるでもなく、嫌な記憶を封印するでもなく、とにかく前へ進むためだ。
『景色』では、「なにかがしたいんだ」という、もどかしくも力強い叫びが胸にひびく。
『雨』では、ときに優しく包みこむ雨になり、ときに雨を防ぐ傘になり、「君」に寄りそい思いやる気持ちが静かに伝わる。
『風のひこうき』は、井上陽水の『紙飛行機』への目配せも感じられるが、陽水の、風にあおられあやうい紙飛行機とはことなり、周囲の人々の期待や夢を風として受けとめて、自分なりの軌道を描いてゆっくりと飛ぶ「風のひこうき」のイメージが美しい。
彼女は、フォークソング好きを宣言し、陽水や吉田拓郎、泉谷しげる、遠藤賢司への敬愛を表明して、はばからない。たしかに彼らの最良の部分を受け継いでいるとも言えるわけだが、それでいてなおかつ新鮮だ。
歌うとき、自分自身は「無」となって、歌詞の言葉自体、楽曲自体が語りだすようにしたいと彼女は言う。すばらしくみちあふれる「無」である。