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キャラクター造形がこの人の真骨頂。本作では、まるで『さらば愛しき女よ』の大鹿マロイのような心優しき大男が主人公。ふとしたことから人生の道を踏み外し、背中に墨を入れ(勿論知る人ぞ知るヨコハマの彫安の手になるもの)、ヤクザとしての自分に忸怩たる思いを噛み締めている。
死んだ親父の足音を追っているうちに深みに嵌まってゆく主人公は、謎を追い、父の人生の航跡を追い、自分自身の明日を追っているようにも見える。主人公に絡む兄妹が
出色である。そして香納作品には欠かせない「忘れがたき悪役」としては、元プロ空手家が登場。これがまた素晴らしく存在感を醸している。いつも香納ワールドに響きを持たせる彼ら個性的な悪役の存在。組織に属しながらいつも個人であり続ける不敵なやつら。なんという人物造形の確かさだろう。
数えてみれば三ヶ所。ぼくがつい涙腺を緩めた場所の数である。ラストシーン、それこそずきずきと胸が痛くなるほどに心臓が鳴り響いた。錦繍の榛名山腹。どこまでも続く山並み。あくまで美しく、痛いところを突いてくる作品。メロドラマではなく、だれもが持っている父親へのこだわり……葛藤、不在感、そして反骨と後悔。あくまでミステリーであり娯楽性を追求していながら、こんなにも見事に深々と読者の側の傷の痛みを突いてくる。これが香納諒一なのである。和製ハードボイルドの旗手という称号を今回だけは文句なしに与えたくなった。それだけ感動的な一冊ということである。
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