全体的にはいろんな視点で書かれてあって面白いと思います(著者の倫理学関係の本が面白かったのでその流れで読んでみました)。ただ,気になる点が少し。
H.W. ルイスの本「科学技術のリスク―原子力・電磁波・化学物質・高速交通」(宮永一郎訳)をしきりに批判していますが,本書に引用されているルイスの文章がどうも常識はずれっぽくておかしいんです。もしやと思って原著「Technological Risk」の該当箇所を見てみたところ,宮永訳本の誤訳なのではないかと思いました。ルイスは,単に「最悪の事態に対処するな」などと言っているのではなく,『「すべての」プランを「ほとんど起こりそうもないような」最悪の事態に対してたてるのは間違い』(それでは現実に起こりうる脅威に対処できない,起こりやすいものから対処すべき)と言っているのでしょう。宮永訳本も罪ですが,原著を読まずにルイスが主張もしていないことに対して延々批判している著者も,もっと慎重に考えてみるべきではなかったかと感じます。
それから,原発事故のような希少事象は大数の法則が成立せず確率論になじまないとの批判がありますが,確率論的リスク評価で用いる「確率」はいわゆる主観主義の立場(唯一の事象についてもその発生可能性としての確率を定義する)をとっているので,その批判自体が的外れになっていると思います。
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