冒頭の数ページを読み溜息をつく。古風な言葉を交えた文章が美しい。
漢字だけでは見当もつかないが、ルビを読めば大体意味が分かる、美しい響きの言葉である。人の営みや自然を表現する言葉が、日本語にはこんなにも豊かにあるのかと溜息をついた。
しかし、この美しい序章の終わりで、主人公である新里林弥の兄、結之丞は暗殺される。当代一と呼ばれた剣士が刀を抜く間もなく背中を一太刀で。
それから二年が過ぎ林弥は14歳に成長していた。同い年の上村源吾や山坂和次郎と剣術修行に明け暮れる毎日だ。成長期を迎えそれぞれの個性が顔を出し始め、友が急激に大人びて見える時期でもある。林弥は源吾や和次郎に心配されるほど一途な性格である。
そこに現れたのが同い年の剣術の天才、樫井透馬である。諸般の事情で江戸で育った透馬は、林弥の他にはただ一人の結之丞に剣を学んだ弟子でもあった。透馬は不敵で無垢な笑顔を見せる少年であると同時に、明敏な頭脳と大人びた憂いも見せる。林弥と透馬を対に描くと、林弥の一途な性格がさらにきわだつ。
透馬との出会いが林弥に確かな目標を与え、林弥を急成長させた。成長期の少年の中には日増しに成長し、才能を開花し輝きを放つ者がいるが、林弥はまさにそういう少年である。
天才透馬も自分にはない資質を林弥の中に見いだし、お互いが認め合う関係になる。
そして林弥は、藩政が大きく揺らいだ時に、機せずして兄の仇を討つ機会を得る。
しかし、それは綺麗事では動かない大人の世界を見る機会でもあり、行き場のない怒りをこらえる苦い体験でもあった。
この時代、成長期が終わればすぐに元服して、家を背負い生きていくことになる。林弥らは既に青春の終わりを意識している。現代なら何年もかけて上る階段を、一気に駆け登るのだ。
青春はやがて終わるからこそ輝いてみえる。だとすれば、時代小説だからこそ描けるこの凝縮された青春が、より一層の輝きを放つのも道理に思える。