マルコム・ラウリーは欧米ではかなり著名な作家ですが、日本では
あまり知られていず、彼の代表作『火山の下』が新訳で読めるのは
嬉しい限りです。
大江健三郎にも影響を与えたと言われる本作は、メキシコ駐在の元イギリス領事で
酒に溺れ自分を滅ぼしていくジェフリー・ファーミンと彼の義弟ヒュー、
別れた妻イヴォンヌなど、それぞれの視点で描かれる重層的な作品です
(実際には1938年11月2日という一日だけが舞台ですが)。
白人に搾取されたメキシコという土地のエキゾチシズム、
そこで破滅に向かうファーミンの姿は「老いたるヨーロッパ」の
象徴とも植民地時代の贖罪を担った存在とも取れます。
本書は故ジョン・ヒューストン監督によって1984年に映画化されていますが
(ファーミンにアルバート・フィニー、イヴォンヌにジャクリーン・ビセット)、
フィニーの熱演や迫力あふれる闘牛場の場面などにもかかわらず、
難解な原作の魅力を充分伝えるにはいまひとつだったように思います。
過去と現在が交錯する描写など、けっして読みやすくはありませんが、
迷宮をさまようような不思議な牽引力のある作品です。
翻訳も原作の豊穣なイメージを見事に日本語に置き換えていると感じました。