『眠り姫の気高き瞳に』で、“弟ミハイルの死の復讐にとりつかれた男”として登場した、ロシアの公爵ニコラスが今回の主人公。
ミハイルの不幸な死と、ロシア当局の拷問によって心身に受けた傷に、いまだ人知れず苦しみ続けるニコラス。
愛を拒絶することで正気を保ってきた、手負いの虎のようなニコラスが、人を愛せるようになり、家族とともにしあわせになるための努力をしようと思える
ようになるまでの姿が、彼の前世や、前世での悲劇的な愛の物語を絡めながら、描かれています。
ミハイルを人格破綻から救えなかったこと、ミハイルを冷酷な父親の残虐な仕打ちから守れなかったこと、ミハイルを不幸なまま死なせてしまったことは、
彼の死から7年以上経過してもなお、ニコラスを責め苛んでいます。
傍目には華やかな生活を送りながらも、凍りついたニコラスの心を動かすのは、ただエマの存在のみ。
エマに執着するニコラスは、彼女の身も心も所有しようと画策しますが、彼女と接する時間が増えるにつれて、不可思議な白昼夢を見るようになり、心を
ひどくかき乱されるようになります。
白昼夢を見るたびに、自分が崩壊していくような、自分が自分でなくなるような怖れを感じるニコラス。
エマへの渇望と、エマによって動揺する自分自身への嫌悪に引き裂かれるニコラスは、自分の正気を保つため、エマを自分から遠ざけるために、彼女を
傷つけずにはいられなくて…。
エマは、ニコラスと初めて出会ってから7年が経過し、20歳になっています。
物語の前半のエマは、自分の魅力に自信がもてない未成熟な女性です。
彼女は「自分を愛してくれる男性はひとりだけ。そのひとりを父親が追い払ってしまった以上、もう自分が男性に愛されることはない。結婚もできない」と
思い、ニコラスの求婚に応じます。
ニコラスと深く関わっていくなかで、エマは女性としての喜びに目覚め、悲しみや苦しみを味わい、自分の愛や本当の自分自身と向き合い、堂々たる大人の
女性へと成長を遂げていきます。
エマの成長もこの作品の読みどころのひとつ。後半のエマは、ほれぼれするほど魅力的です。
余談ですが、今回のルークとニコラスの姿に、『憎しみもなにもかも』『悲しいほどときめいて』のロスとニックの関係を思い出しました。
愛する女性(上記の作品ではソフィア、今作ではエマ)のために、お互い不本意に思いながらも手を結ぶ男たち。
お互いに強い敵意と不信感を持ちながら、同時に相手を自分と互角にたたかうことのできる男、愛する女性を命をかけて守れる男として認めてもいる、
そういう男同士の関係がとても素敵でした。
読みごたえはたっぷり、魅力もたっぷり。
しかし、ヒーローの前世が大きく関わるストーリーも、冷酷でダークなヒーローも、通常のヒストリカル・ロマンスからすると異色の作品です。
読者の好みによって、評価が分かれる作品だと思いました。
『眠り姫の気高き瞳に』を未読の方には、ぜひ一読をおすすめします。
ニコラスというキャラクターや、ニコラスとエマの間にある運命的なつながりが、より理解できるようになると思います。