長く待った最終巻が出ました。くノ一の妻、織江と、天文を学び、海の彼方に憧れる平戸藩士の双星彦馬。
長く離ればなれになりながら、忍者の織江は陰から夫の動静を見守り、仕事を果たして彼のもとへ帰れるよう、戦ってきました。
くノ一といえば、山田風太郎の妖艶で可憐な美女たちがその代表のような気がしていましたが、風野真知雄の描く、織江やその母で「天守閣のくノ一」と呼ばれた雅江、好敵手浜路らは、自然体のりりしさを持ち、けなげでいじらしく、何ともいとおしい、新しいくノ一像でした。特に、織江と雅江の母娘のふんわりした絆のありかたは心に残ります。
全編の見所としては、「甲子夜話」の松浦静山公が全編にわたって、その大きく悠揚せまらざる人物像をあらわしています。
飄々とした彦馬、謎の(この物語で実は一番、強いかもしれない、私の大のお気に入りの)忍者、雁二郎、織江に恋慕しているお庭番川村、抜け忍織江を追ってくる四天王。この巻も、どの人物も風野流のあたたかくユーモラスな筆致でくるまれていて、忘れられません。クライマックスは幽霊船上での全員の秘術を尽くしての対決ですが、星空と海鳴りを背景に、そこにはどこか詩情が漂っています。
「このままで」と書いた七夕の短冊に「いつまでも」と書き添えて姿を消した織江を、ずっと待ちつづけた甲斐あって・・・
ラストはあえて明かせませんが、大きな歴史のうねりと日本の転換期を縫うように、ふたりの恋の行方が描かれ、広やかな天地に開けてゆく、風野流のエンディングが何も言えないほどの感動です。