制度に反対の立場の元裁判官で現弁護士の井上薫氏と賛成の立場のジャーナリスト門田隆将氏による討論集である。
門田氏は裁判員制度に賛成とは言っても、制度に数多くの欠陥があることを知った上で、現在の制度にも官僚裁判官特有の重大な問題点が存在し、それを打破する爆弾としての効果が期待できる、という立場からの賛成であり、両者の意見は真っ向から対立するものではない。
また、門田氏がこの制度に関して評価している部分は、公判前整理手続きや裁判官が持ち合わせない社会常識の反映など、裁判員制度そのものではなくその副次効果の部分であったり、一般国民の参加の必然性のないものであったりと、必ずしも裁判員制度全体を総合的に評価しているわけではない。
両者から、現状の裁判官に対する問題点の指摘も多くなされている。
成績優秀で若いときに司法試験に合格し、いきなり人を裁く立場に立つことで強烈なエリート意識を持っていること、一般の仕事の経験がないため庶民の日常生活の一般常識(例えば経済や理科)がないこと、年に200〜300件も担当するためにいちいち感情移入する余裕もなく、事務的に相場で量刑を決めがちなこと、出世が第1で、良い評価をもらうためには上に気に入ってもらえる判決内容と件数をこなすことが大事になってしまうこと、法律の勉強ばかりしてきた裁判官には実は事実認定能力はないこと、公務員として国から給料をもらっている立場から国を負かすことはできないこと、前例を極めて重視し、個別の事情を考慮しないことなど、枚挙に暇がない。
著者2人は賛成派と反対派でありながら、賛成派の門田氏が裁判員制度の問題点を指摘し、賛成派の井上氏が裁判官の非常識を指摘し、両者の個別の主張に対立する点はほとんどない。唯一、裁判員制度で司法が良くなるかどうかという結論だけが異なる。
門田氏は裁判官がひど過ぎるから一般国民の方がましなはずだと考え、井上氏は法律の素養のない国民の裁く裁判は直感による裁判だと危惧する。
これは実は両者とも正しいと思う。日本の裁判制度はまだ正解にたどり着いていないのだ。純粋培養の裁判官でもない、しかも法律の素人でもない人間に任せる案が最後に両者から提案される。実によくできた構成だと思う。
両者とも、自分の結論に反しかねない事実を客観的に認識し、問題点として述べている。このことによってこの本は裁判員制度の是非について読者が判断するのに必要な情報のすべてが書かれていると言っても過言ではないほど極めて充実した内容となっており、裁判員制度の入門書としては最適であることを強く確信する。