2008年10月に発行された美術論文集です。「文明開化のはざまに」というサブタイトルが付けられた『幕末・明治の画家たち』という論文集が好評のため、その続編として企画されたものですが、編者の辻惟雄氏が「はじめに」で書かれているように、どういうわけか、10数年の歳月が流れてやっと刊行されたという難産の上の出版物です。
辻氏の論考の後記に「この論文は、確か1997年頃ぺりかん社に届けられたもので、執筆した当時の記憶はもはや定かでない。とはいえ、十年後に思いがけず陽の目を見るのは嬉しい。今ではこんなに細かなことは書けない年齢になっている。」と書かれています。確かにこれは実感でしょう。他の論考の後記にも同様のことが書かれているものがあり、編集と執筆者の間で何かがあったわけでしょうが、それぞれの論考の内容の確かさは一定の年数を経ても変わらないものがありました。
美術史の専門書ですが、一般愛好家にとっても役立つ内容です。各研究者の力量を示す含蓄も見識のある美術論ですから、美術愛好家には堪らないような中身でしょう。専門書ですから簡単な記述ではありません。口絵はありませんし、掲載作品はモノクロです。ほとんどが活字ですから、美しさを求める場合は他の書籍に当たってください。幕末・明治という激動の時代を生き抜いた絵師や画家たちが新しい価値観をどう作り上げたかが興味のあるところでした。その時代でないと生まれえない絵師でしょうし、作品群だったと言えます。
本書の執筆者と内容です。辻惟雄氏の「空飛ぶ絵師の眼 けい斎・北斎・貞秀」、塩谷純氏の「菊池容斎 雅俗を越えて」、安村敏信氏の「柴田是真 漆中筆あり」、横田洋一氏の「五姓田芳柳・義松親子の見果てぬ夢」、菅原真弓氏の「月岡芳年 幻想の中の「江戸」へ」、岡本祐美氏の「清親の見た「文明開化」」、山梨絵美子氏の「渡辺豊次郎/豊洲 「画家」になれなかった「絵師」」、児島薫氏の「幕末・明治の花鳥画と「日本画」の形成」