アマゾンをたびたび利用する者として、配送現場のディテイルを描いてくれるルポは面白かった。新書より中古本が売れた方がアマゾンにとって割が良いといったカラクリも目からウロコです。こうしたルポで押し通せばいいのに、余計な論評で損をしていると思います。配送センターの現場の単純労働を詳細に書いていますが、それについてどう思うかは読者に任せるべきだったでしょう。著者は「空虚な職場」という言葉で斬っている。でも、この本を読んだ限りではそこまでは伝わってきません。
僕は10年ほど前に夜の居酒屋でバイトをしていたが、とてもしんどかった。動き回る体力仕事のうえに、お客さんに怒られないように気を配らねばならない。時給は配送センターよりちょいと高いけど、日本の学生はすぐにやめるので、アジア系の外国人だのみでした。今の不況下でも日本人は長続きしないそうです。潜入ルポを読む限り、アマゾンの配送センターは常に十分な数の日本人を確保できるようです。面倒な接客が苦手な人にとっては結構居心地がいいのかもしれませんよ。著者はルポで配送センターで働く人々の不満の声や抵抗姿勢にほとんど遭遇できず、現状に身を任せるような姿に戸惑っているそうです。それを総括する言葉が「空虚な職場」では、あまりに独りよがりではないでしょうか。
著者が業界紙で働いていたころ、日本通運の社員に大手メディアと違う対応を受けて不快に感じたことも書く必要はなかったのでは。企業としては至極当たり前のこと(一般市民だってそうです)。今回の潜入ルポで日通の子会社の社員を悪役っぽく書いてますが、単なる私怨じゃないのかと勘ぐられてしまうかもしれません。
著者によるとアマゾンの利用者の平均年収は500万円超。それを年収200万円のバイトが支えている。妻子と都内で家賃12万円の家に住み、妻の仕事の関係で外国に異動することになったという結構なご身分の著者は、これが「階層社会」だと指摘し、アマゾンを利用する自分に嫌悪感さえ覚えるそうです。さて、そんなことを書く著者に、配送センターで働く方々は共感を覚えるのでしょうか。多くの読者が「思いやりのある一流のジャーナリスト」と感心するのでしょうか。アマゾンの内幕にぐいぐい引き込んでもらいたいのに、それを邪魔する記述が多すぎて、読んだ後に残ったのは「知る喜び」より「不快感」の方がやや多かったです。