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本書は,明治・大正期において,西欧の近代思想に向き合った知識人たち,たとえば,文芸評論家(高山樗牛),文豪(夏目漱石),クリスチャン(新渡戸稲造),哲学者(和辻哲郎,阿部次郎),詩人(萩原朔太郎),小説家・ジャーナリスト(芥川龍之介)という近代日本の知性を代表する人々を取り上げています。そして,それらの知識人たちが,ニーチェ(それまで西欧を支配してきたキリスト教思想を木っ端微塵に破壊し,多義的で難解だが,生身の人間を肯定する思想を確立した人物)に対して,どのように向き合い,どのように行動したかを描く感動の物語となっています。
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私は,夏目漱石の『我が輩は猫である』を読み直していて,本書に出会いました。本書の解説に導かれて『猫』を読み直してみると,これまで理解ができなかった難解な箇所が,面白いように理解できて,とても幸せでした。
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本書の特色は,近代日本の知性たちが,ニーチェをどのように読んだかを,それぞれの人々が所有していた本への「書き込み」を丹念に読み返し,それらの人々がニーチェに対してどのように思考してきたかを明らかにしている点にあります。
本書では,この「書き込み」の調査研究を通じて,ニーチェの原典に当たって思考した人,原典の翻訳作業に従事した人,その翻訳に頼った人,書評に頼った人とが見事に対比されており,時間を浪費するようにも思える原典に当たる努力の意味を再確認することができます。
なお,ニーチェの思想について前提知識のない方は,初めに,第6章(芥川龍之介,ニーチェと出会う)の第4節のニーチェの根本思想に関する著者の解説(371〜380頁)を先に読んでから,または,
竹田青嗣『ニーチェ入門』ちくま新書(1994)などの入門書を参照しながら本文を読まれることをお薦めします。
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生と死とに真剣に向き合った人々が,西洋哲学の到達点の1つであるニーチェの思想を受容していく過程を克明に描く本書は,まさに,日本の知性たちの苦難とその超克の物語であり,本書のような高度な論文集を読んで目頭が熱くなったのは,私にとっては初めての経験でした。
本書は,時間をかけても読むに値する,比較文化論の傑作だと思います。