NHK『BSマンガ夜話』のレギュラーとしてもおなじみの漫画家・いしかわじゅん氏の漫画評論集である。本書の特徴としては一般的に漫画評論で取り上げられる機会の少ないブルーカラー志向の作品(特に『漫画ゴラク』)である『
ミナミの帝王』(作:天王寺大、画:郷力也)や『
修羅がゆく』(作:川辺優、画:山口正人)などを取り上げている事も興味深い。
当時、著者が吾妻ひでお氏(『
失踪日記』著者)との間で共に自分の作品中に相手を登場させて貶め辱め、(冗談ながら)大抗争を繰り広げていた時に“漫画の神様”手塚治虫氏から「今描いている漫画(『
七色いんこ』)に、いしかわ氏が登場人物として出てきてくるんだけど、(中略)、それに最後にいしかわ氏と吾妻氏のキスシーンがあるんだよ、いいかなあ」と自ら電話で著者に許諾を求める巨匠・手塚治虫氏の挿話が面白かった。
また、かつて劇画誌や麻雀コミックで活躍され、大ヒット作や消えることなく飄々と40年以上に渡って漫画界を生き抜いた山松ゆうきち氏(代表作『
2年D組上杉治』)が自分の漫画がさっぱり売れないことからこれだけ日本漫画が世界で受けているんだから、まだ日本漫画が上陸していない国で日本の漫画を出版すれば儲かると踏んで
単身インドに渡った挿話は爆笑物でした。
最後に少年ジャンプ誌上にて『
SLAM DUNK』で超大ヒットを飛ばした井上雄彦氏に各誌の編集者が井上氏のもとを訪ねた際、どこの編集者も、なんでも好きなものを描いてくれて構わないと連載依頼するなかでひとりモーニングの編集者だけが、
「ぜひ、うちで吉川英治の宮本武蔵をやってほしい」
と具体的な企画を依頼し、結果として御存じのように大ヒット作『
バガボンド』を世に送り出した誕生秘話は大変よかった。