木内昇は「茗荷谷の猫」からのファンですが、長編時代小説ということで読んでみました。
江戸から明治へ。新時代の波に乗れず、鬱々と生きる主人公。
現代にも通じる、そうした主人公の周辺を魅力的な脇役で固め、宿場町の遊郭のざらっとした空気感を見事に出した、間違いなくこれは傑作でしょう。
時代小説を読むとき、私は、アミューズメント・パークに遊びに行くような気持ちで読んでいます。
過去という「今ではないどこか」の世界にふっと遊びにいく。
だから、その世界にすんなり入れるかどうかが、私にとっては大きなポイントなのです。
完全に、今の現実を忘れさせてくれるかどうか。
その意味では、冒頭から引き込まれました。
砂塵の舞う宿場町。どこか疲れたような人たち。新時代の掛け声とは裏腹に、生きることそのものにとまどうような人間たち。
元武士。遊女たち。正体の知れない噺家。
一気に読み進めていくうちに、現実と幽玄の世界の境がしだいになくなっていく。
このあたりは、木内昇の真骨頂でしょう。
花魁が意地を見せた花魁道中のシーンは圧巻。
有吉佐和子の「真砂屋お峰」の花見のシーンを思い出しました。
着物好きは必読。
意地を通すって、こういうことなんですよね。
ゆれてばかりの主人公と対照的に、この花魁の「ゆるぎなさ」は痛快です。
いざとなれば、女のほうが度胸がすわっている、ということかも。
読んでいる間、とても豊かな時間を過ごせました。
明治初期の宿場町を、まさに「体験」することができました。