滝田未亡人に直接取材した内容は滝田さん本人の人物像を補強する上での貴重な資料だと思います。
ただ惜しくも極めて断片的ですので、それだけで人物像の全体が判るわけではなく、ディテールの補強としての貴重さです。
現在の旧寺島町界隈を実地探訪したルポは、あまり意外な発見はないのですが、まあ、雑誌かタウン紙の記事のような感覚でパラパラと読めます。
向田邦子さんや荷風先生を引用し滝田さんとの比較や相似点の指摘をした論考もあります。
これらを全体の三割とすると、残りの七割に当たる本書の主要な内容が、「寺島町奇譚」等の滝田作品のシーンを文章で詳細に再現して解説することと、著者による「このシーンにこのコマがあることの意味は深い」的読書指導で占められています。
文章での再現については、作品を読んだことのない人にはへえ、とか読んでみよう、とか思わせるキッカケになるかも知れませんが、読んだことのある人には今更です。
読んだことのない人にとっても、本書まるごと一冊かけて「寺島町奇譚」がどんな作品なのか想像を膨らます必要は必ずしもない訳で、実物を自分で読んだほうが早いです。
読書指導については、私はそうは思わない記述もありますし、無論どちらが正しいということはなく読み手がそれぞれ好きに解釈すればいいのですが、であるがゆえに「こう味わいなさい」と味わい方を他の人から教えられて味わうのもどうかと思う訳です。また十分に同意できる記述も多いですが、それとて斬新な見方というよりは、十人中九人はもともとそう読むだろう、という内容が多いように感じました。
やや酷評で申し訳ありませんが、著者の滝田さんおよび「寺島町奇譚」への愛情は全編に溢れておりますし、遅れて滝田作品ファンになった著者が興奮冷めやらず、その素晴らしさをまだ知らない人たちに伝えたくてたまらず書き上げた感じでしょうか。力作の読書感想文か、同好の先輩の自慢話というのが正直な印象です。