満州事変と日中戦争に関する詳しい著作は本書がはじめてという方にとっては、ちょっと敷居が高く感じられるのではないか。元々、満州事変と日中戦争は込み入っていてわかりにくい。特に本書の最初の第一章のような出だしは、元々史実がある程度整理されて頭に入っている人でないと、面食らうだろう。
しかし、2冊目以降に読む本としては非常に優れた著作だ。特にアメリカやイギリスの対応の変化とその背景に関してはなかなか詳しく書かれている。これを読むと、アメリカもイギリスも、満州事変時点では必ずしも強行一辺倒ではなく、特にイギリスに関しては満州国を認知することも選択肢になっていた時期すらあったことがわかる。リットン調査団の顔ぶれや略歴や性格についての説明もなかなか興味深い。
さらに、敵対していたにも関わらず円と元の経済圏がポンドを通じて共に輸出に有利な関係にあった時代もあったこと、高橋是清の経済政策がもたらしたもの、松岡は実は国際連盟脱退に反対だったこと、石原の考えていたことや思想とその影響、日中戦争の戦費の6割が実は対ソ戦向けの拡充計画などに使われていたという事実など、かなり入念に調べて熟知した上で記述されたことが随所に伺える。さらには、二・二・六事件の分析、ゾルゲの日本分析、日中戦争が宣戦布告なき戦争になった理由などの説明は、簡潔ながら的確で鋭い。
ひとことで言うなら、本当によく調べて、熟知した上で書いている。既に日中戦争や満州事変に関してある程度詳しい知識を有している方でも参考になると思う。秀逸な歴史書である。