湾岸戦争の多国籍陸軍と陸戦に焦点を当てた戦史を、「軍事研究」誌の2008年4月号から2010年2月号まで連載された記事を加筆・訂正して上下巻にまとめた大作です。
同様に同著者により湾岸戦争全般についての記され「軍事研究」誌に連載された記事をまとめた「湾岸戦争データファイル」アリアドネ企画発行が以前にありますが、より新しいデータに基づいている他、陸戦や部隊編成についての記述は非常に詳細なものになっています。
シュワルツコフ大将(中央軍司令官)が激怒した「第7軍団の進撃速度が他の軍団より遅かった」のはイラクの強力な精鋭部隊による防衛ラインへの攻撃と突破によるもので第7軍団やフランクス中将(第7軍団長)が非難されるのは不当であることがよくわかります。
その他にも、シュワルツコフが、自分の知識が乏しい空爆の詳細に感情的に介入したり、休戦について前線指揮官に状況確認をすることなくワシントンに同意して多くの共和国親衛隊を取り逃がしたなど、英雄となったシュワルツコフの失敗や高級指揮官としての資質への疑問など、今までの湾岸戦争ものでは語られなかった事実も多く記載されています。
また、
・イラクのクウェート侵攻時のクェート市郊外でのクェート機甲旅団の善戦
・カフジへのイラク軍侵攻と多国籍軍の反撃
・クウェート郊外での海兵隊の攻撃
など、詳細がそれほど語られていなかった部分も詳細が記載されており、本書を基に上記それぞれついてヒストリカルシュミレーションゲームを作れるのではないかと思われるほどです。
著者が語るとおり、イラク側の記録が無いのが難点ですが(アメリカがイラクを占領したので時が経てば、相当な部分が公表されるでしょうが)、現時点では湾岸戦争の陸戦戦記としては(少なくとも日本語書籍として)最高の出来だと思います。