世界中で民主主義体制が根付く中、アラブ世界で今なお権威主義体制が維持されているのは各方面から指摘されています。本書は、湾岸アラブの現状を豊富なデータを元に多角的に分析するだけでなく、民主化に向けた日本政府への提言までも記しており、どこか他人事で書かれた従来の書籍にはない貴重な一冊だと言えます。
特定の地域に王制国家がこれほど集中するのは、世界の中でも極めて珍しい。それ故湾岸アラブ諸国は往々にして一握りに論じられがちで、個々の国々の実像が見えにくい。しかし個々の国々を丁寧に分析すれば、現在の体制、民主化への国民の受け止め方において、多くの違いがあることが分かります。例えば豊富な原油を持ちながら民間の発展が抑制されたサウジアラビアでは、度重なる請願書の提出に見られるように、現体制に対する国民の不満が極めて高い。逆に部族的原理に基づく経済発展を実現し、多数の在住外国人を抱えるUAEでは、民主化への国民の要求が極めて低い。更には、穏健かつ民主的なイバード派が主流の湾岸唯一の国でありながら、諮問評議会や選挙に対する国民の信頼が極めて低い、オマーンのような国もあります。こうしてみると、個々の国々の事情を適確に捉えない限り、民主化への適切な支援も行えないことが分かります。
無論議会における立法権の不在や、政党活動の禁止のように、各国共通の課題は数多くありますが、取り組まれ方や改善の度合いは各国で異なり、一握りに捉えることができません。また、課題の改善を急激に進めても、経済発展に基づく民主化という従来のやり方が、湾岸では通用しにくい。重要なのは個々の国々の事情を十分踏まえた上で、国民が求める形での民主化を漸進的に進めることですが、それへの支援に向けて具体的な提言まで記されている本書は、熟読するに十分な価値を持つと言えます。