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これらのうんざりするような語句が日常茶飯事のように出てくる。しかも、「ひとりの人間」の半生を綴った「一冊のノンフィクション」の中に。それでも最後まで読んだのは、これは「ひとりの人間」もしくは読売グループという「ひとつの組織」だけの問題ではなく、日本という民主国家にかかわる、決して他人事ではないという「義務感」を覚えたからだろう。
この本は、「プロローグ」としてまず、当時、自民党官房長官であった野中広務が渡邉を「先生」と呼び、ひれ伏して謝罪するというシーンから始まる。それまで、渡邉を単なる「一企業のワンマン経営者」としか知らなかった私にはこのシーンだけでも衝撃的だった。そこから、彼は経営者というよりむしろ「読売グループだけにとどまらない日本政治におけるフィクサー」であることが、詳細な事実と共に読者に明らかにされていく。
大野伴睦(元自民党副総裁)・児玉誉士夫、正力松太郎・務台光雄の懐に深く入り込み、その権力をバックに同じく自らも権力の階段を駆け上がっていく。中曽根康弘などは科学技術庁長官の認証式(昭和三十四年)が終わったその夜に渡邉の元に駆けつけ、「おかげさまで大臣になれました」と、深々と頭を下げている。
そして、読売グループのトップの座を得た後は、マキャベリ「君主論」に忠実に、「恩愛」ではなく「処罰の恐ろしさ(=「人事権の苛烈な行使」)」で権力の維持に努めることになる。
最終章で著者は、「かつて誰よりも自由を愛した哲学青年は、国家の論理をふりかざして記者たちの言論の自由を脅かす巨大な権力者に変身した」と書いている。これを僭越ながら換言させてもらうと、「かつてスターリンの独裁性を嫌うが故に共産党のソ連追従路線を批判した青年自らが、『マキャベリズムの多大なる実践者・成功者』に変身した」ということになるだろうか。とにかく、著者の粘り強い取材力と「勇気」に敬意を評したい。
彼の強烈な個性と過激な闘争心はどこから生まれたのか。
その答えを求めてこの本を手にとった。
苦渋の少年期から共産党員時代、読売新聞への入社から
社内の派閥争いにおける権力闘争をどう勝ち抜いていったかが
綿密に描かれている。
私はかねてから彼の無計算に思える激しい言葉の数々と
それとは裏腹に綿密に構築された理詰めの戦略思考のアンバランスさ
に疑問を持っていたが、この本を読んでその秘密の一端が
わかる気がした。
つまり、彼は新聞人というより最強の政治家なのである。
彼にとって他人は「打ち砕くべき敵対者」か「自分に完全服従の
追従者」かのどちらかにはっきりと分けられるのだ。
著者が引用するマキャベリの君主論の言葉がこれほど
ぴったりはまる男は今の日本には他にいないだろう。
それにしても読売新聞の歴史はこのような強烈な個性を
もった人々によって彩られている。正力松太郎、務台光雄、そして渡辺恒雄。
以下の二冊をあわせれば「ゴッドファーザー」のような読売ファミリーの闘争の歴史、一大トリロジーになる。
あわせておすすめしたい。
・「巨怪伝―正力松太郎と影武者たちの一世紀」佐野真一 文春文庫
・「新聞の鬼たち 小説務台光雄」 大下英治 光文社文庫
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