かつて日本人はこのように無邪気であった。世界の趨勢にも、自分が歩いている日本の山川の開発にも一切目をくれることなく、子供みたいに悦びに浸って山を歩き渓流を堪能し沢のぼりにキャンプを張り…文章のための文章=「名文」を一心につづっていた。ここには愛でるような懐古がある。林の緑が・清流の音が・稜線からの青空が好きでたまらない1個の日本人が染み入るように感じている。どこにも葛藤はない。議論などない。ただただ淡々とした、現実を忘れさせてくれる、その意味で一夜の夢物語でさえあるがしかし日本の山々の描写による、心地よい読み物。まさに旧時代の遺物。読者は日本の美しかった自然──「瀞」(トロ)に沈み「青嵐」にむせぼう。