江戸時代に弘前の医官で考証学者でもあった渋江抽斎という人物の人生と、その子孫、親戚について克明に調べ上げたものである。
「武鑑」収集の途上で抽斎の名に遭遇したことをきっかけとはいえ、何の血の繋がりもない人物と、その家系を事細かに調べ上げるとは、驚きというほかない。
渋江抽斎の生きていた時代は、鴎外より約100年前である。渋江抽斎自身が記した書物があることから、いろいろなエピソードがまだ残っており、また抽斎にゆかりのある人物を探すことはそれほど難しいことではなかったに違いない。
自分の直系の先祖について除籍謄本を取り寄せて遡れる先祖は、現在1800年初頭くらいが限界で、いわゆる冠婚葬祭の記録しかわからない。除籍謄本にある故人のエピソードは、その家族や友人の死によって、限りなく薄まってしまう。たった半世紀前のことですら、わからないのである。
鴎外が本著に入れ込んだ本当の目的は何だったのか、私はよくわからない。読み方によっては退屈な書物だ。しかし、時間軸に沿った人の繋がりを調べていくことに楽しさを発見することは、現代に生きる我々にも共感できることかもしれない。