清水の次郎長こと山本長五郎(1820−1890)について知っていることは僅かだった。歌謡曲の♪清水湊の名物は、お茶の香りと男伊達・・・云々と、TVや映画で通俗化された姿ぐらいのもの。断片的な知識として明治維新時に東海道の治安確保に一役買ったということだけであった。
5章建ての本紙では、第3章まで、種本となった「東海遊侠伝」という本に則り、ヤクザ次郎長の手に付けられないほどの暴れぶりが活写される。武闘派という言葉がぴったりする。しかも、洋の東西、時の古今を問わず、ヤクザの闘いは凄惨だ。子分・石松が殺されるくだりや逆に仇を討つシーンの叙述は迫力があった。
一方、歴史家としての筆者の目は、黒船来航以降の幕末、維新の中で博徒の運命をきちんと位置づけている。また、名前のみ知っていた山岡鉄舟の生涯を跡付けてくれたのもありがたかった(4,5章)。第2章までは、少しクセのある、講談調の文体ですが、最後に近づくにつれ平明な語りとなって行きます。最初の方で読むのを投げ出さないで下さい。