◆「清兵衛と瓢箪」
作者自身の父子対立が投影された作品といわれていますが、
そのような文学史的知識がなくても、一篇の小説として、
非常に完成度が高いので、充分たのしむことができます。
清兵衛の趣味に対する周囲の無理解や理不尽な抑圧が露骨に描き出される一方、
清兵衛自身は、それに対して必要以上に萎縮したり鬱屈することなく、後には絵という
新たな趣味に目覚め、マイペースを貫いています。
その姿が実にすがすがしいです。
もちろん、清兵衛の目利きが確かなものであったと
証明されるくだりも、若干ベタですがやっぱり痛快。
ただ、そんな清兵衛をなおも苦々しく思っている彼の父が示す
「最後の一行」の行為は、今後の波乱を予感させ、不穏な余韻を
残しており、本作にふさわしい絶妙の下げだといえましょう。
◆「児を盗む話」
「貴様は一体そんな事をしていて将来どうするつもりだ」という父の罵声から始まる
本作は、ある意味「清兵衛と瓢箪」の後日談、あるいは裏ヴァージョンとして読める作品。
タイトルが示す通り、作中の“私”が見ず知らずの少女を家に連れ帰ってしまうという話で、
良識派からすれば眉をひそめるような内容でしょうが、“私”を苛む不安や焦燥は、切実で、
ひどく現代的に感じました。