私はこの女性に関して好印象を持っていなかった。妻の座にしがみつき、愛する人を一番苦しめていた、そう思っていた。しかし幼い子を残し、夫が他の女性に走る、という事はどういう気持ちであろうか、そして、被害者であるはずの自分が多くの人から批判にさらされるのはとてつもなく辛いことであろう。
吉行淳之介氏は本当は優しいのではなく弱い人なのだと思う。誰も傷つけたくないからこそ、皆を傷つけてしまう。しかし誰も彼を責めない。責められるのは彼を愛した女性達である。
彼は捨てた妻にも優しい、だから彼女は彼を忘れられない、彼女にとって「吉行淳之介の妻」であったことが全てであり、それだけで生きてきたようにすら感じた。
彼女は彼の思い出をたぐりよせ、最後の一滴まで愛された過去を絞るようにこの本を書き(実際は語ったものをまとめたようだが)、この本を出版したのは「吉行淳之介の妻は私一人である」という事を回りにみとめさせたかったその一念につきると思う。
この本は、彼が彼女のもとを去り、「あじさいの女(あえてそう呼んでいる)」のもとに行ったところで終わっている。彼女はその後幸せを感じたことがあったのだろうか?過去だけを振り返り生きていくのはあまりにも切ない・・・