クラーク・ゲイブルとバート・ランカスターという夢の競演が実現した戦争映画。そういえば、バート・ランカスターという人はしばしば大物俳優と競演し自分はサポートにまわる立場をすすんでやった人です。といっても本編では立派に主役の一人です。ゲイブルとランカスターの存在感はいうまでもなく、潜水艦を舞台にしたサスペンスといったおもむきがよく伝わってきて見応えがあります。
監督のロバート・ワイズは大好きな作家の一人。彼のことを作家と呼ぶには語弊があるという人もいます。なぜなら、ワイズは様々なジャンルに手を出し、趣の異なった作品をその都度作り上げたということから、独自の主張に欠けていたのではないかというのです。しかし、彼の数々の作品を観れば、彼独自のれっきとしたスタイルと主張が各作品に明確に刻印されているのがわかります。そのいくつかの特徴を挙げてみると次のようになります。
1・編集がスピーディかつ凝っていること。なるべく意味の無い無駄なシーンを省き、縦横無尽に各シーンをつなぎ合わせて組み立てるという極めて高度な映画的文法を駆使すること。
2・それぞれの映画のモチーフのディテールが過度にドキュメンタリータッチにならずに、架空の物語のなかにあってもとてもリアルに描かれていること。つまり作品全体にさりげないリアリティがあること。
3・流れるようなストーリー展開を重視しながらも観る者が固唾を呑んでしまうような緊迫したシーンを作品中に必ず挿入すること。
4・音楽や効果音の使い方が巧みで洗練されていること。必要とあれば音を完全に排すことによって逆に緊迫感を高めていること。
5・特異なカメラアングル、ズーム、パン、大胆な俯瞰や地面すれすれからのショットなど、そのつど画面構成に必要だと思われる実験的なカメラワークに果敢に挑戦すること。
6・ギミック一辺倒に陥らずに、俳優の存在を尊重し演技をしっかり見せること。ワイズ自身、各シーンのイメージにまつわる打ち合わせは俳優と入念にしたそうだが、演技に対して決して必要以上に細かく口を挟まなかったという。
7・物語の根底にさりげなく社会的なメッセージをふくませること。あるいは、必ず社会性のある題材をとりあげること。
など、多数のことが上げられます。そして驚嘆すべきはどんなジャンルの映画を撮ったときもこれらの要素が彼の仕事には一貫して付されていることなのです。長い間、「ビッグスタジオが望む映画を無難に撮れる個性の無い職人」といういわれの無い評価をされてきたロバート・ワイズですが、昨今映画作家としての彼を敬愛し、また影響を受けたとするマーティン・スコセッシら映画関係者などから再評価の声が上がっていることは嬉しい限り。スコセッシは特にワイズの編集技法、リアリズム、音の使い方に触発を受けたことを認めています。
この『深く静かに潜行せよ』では特にワイズ監督の持ち味である、リアリズムと音響効果が際立っています。潜水艦という我々には難解な代物をワイズはディテールよろしく見せてくれます。そのおかげで、観ている者としても潜水艦の乗組員に感情挿入できるわけです。また、音の使い方が特に潜水艦同士の攻防の際に手に汗握るサスペンスを高めていて効果的です。加えてゲイブル扮する上官とランカスター扮する下士官との潜水艦内での対立を描くことによって社会的な問題をさらりと示唆するあたりもいかにもロバート・ワイズ監督らしいところです。
そんなわけで思わず固唾を呑んで見入ってしまう、この『深く静かに潜航せよ』も映画技巧の粋を凝らしたロバート・ワイズという映像作家らしい作品ということができるでしょう。