内容紹介
本書の特徴
本書は4部14章からなる。
第I部では現在の分布を読み解くための基礎知識を概説する。第1章では,日本周辺の淡水魚類の分布パターンが,どのように記載・認識されてきたかを解説する。第2章では,地質学・古生物学の専門家が,とくに淡水魚類の分布域形成に関係しそうなイベントを抽出しつつ,日本列島の形成史をとりまとめ,わかりやすく解説する。第3章では,現在の生物地理学や進化学において欠くことのできない重要なツールとなった系統地理解析の原理と応用が概説される。
第II部では日本列島の淡水魚類相成立過程について,種内系統地理研究の先駆けとなった代表的な研究例を通して迫る。第4章・第5章では,5種類の冷帯性魚類が登場する。これらは生活史によって陸封魚や遡河回遊魚などに分けられる。水系間の隔離を強く反映した系統地理パターンを示す陸封魚ハナカジカ(第4章)や,逆に海洋生活により適応し大規模な分布域形成過程を反映した遡河回遊魚シロザケ(第5章)などを通して,冷帯性魚類の分布域形成史が描かれる。第6章では,シマドジョウにおけるmtDNA系統の地理的分布パターンの形成過程の考察と,mtDNA系統と種の系統についての大胆な仮説が提示される。第7章では,メダカの種内系統地理研究および近縁種間の系統解析が紹介される。本種で見いだされた精密な“系統地理マップ”は,今後さまざまな純淡水魚との比較の土台となるものだろう。第8章では,両側回遊魚アユのmtDNAの調節領域における不思議な分子進化パターンや,大規模なマイクロサテライト分析によって捉えられた微細な集団構造が紹介される。
第III部では,系統地理パターンを検討するうえで,他種や倍数性集団を考慮しなければならない複雑な状況について取り上げる。第9章では,はじめに種間交雑を介したmtDNAの異種間浸透現象に関する総論が置かれ,つぎに日本産淡水魚における極端な異種間浸透の実例が解説される。さらに,本現象が起きる要因やその系統地理研究への影響などについて,遺伝的浮動と淘汰の両面から踏み込んだ議論が展開されたあと,まだまだ未解明な部分も多い核DNAの異種間浸透についても考察される。第10章では,私たちにも馴染みが深いフナの仲間,なかでも,雌性発生やクローン性といった特徴をもつギンブナにスポットが当てられる。本種の遺伝・育種学的研究史がわかりやすく紹介されるとともに,マイクロサテライトDNA分析によって判明した驚くべきクローンの実体を通して,分布域形成史や起源について興味深い考察が展開される。
第IV部では淡水魚地理の総合的理解に向けて,さまざまな視点からの展望が語られる。第11章では,琉球列島から日本列島南部に分布する複数のハゼ類を対象とした比較系統地理分析の結果が紹介される。第12章では,日本列島における新生代の淡水魚化石とそれに基づく魚類相の変遷がとりまとめられ紹介される。第13章では,分布域形成が生態学的なプロセスであることにあらためて注意が向けられる。第14章では,21世紀初頭の私たちの立ち位置を明らかにしたう
著者について
●編者紹介
渡辺 勝敏(わたなべ かつとし)
1967年生まれ
東京水産大学大学院水産学研究科博士課程修了
京都大学大学院理学研究科准教授 博士(水産学)
主 著 魚の自然史(分担執筆,1999,北海道大学図書刊行会),保全遺伝学入門(共訳,2007,文一総合出版),地球の変動と生物進化(分担執筆,2008,北海道大学出版会)など
第1章・第12章・第14章執筆
橋 洋(たかはし ひろし)
1973年生まれ
北海道大学大学院水産科学研究科博士課程修了
(独)水産大学校助教 博士(水産科学)
主 著 トゲウオの自然史(分担執筆,2003,北海道大学図書刊行会),保全遺伝学入門(共訳,2007,文一総合出版)など
第3章・第9章・第14章執筆
●執筆者(五十音順)
井口恵一朗:(独)中央水産研究所内水面研究部生態系保全研究室室長 博士(農学)
大原 健一:岐阜県河川環境研究所主任研究員 農学博士
北川 忠生:近畿大学農学部講師 博士(学術)
北村 晃寿:静岡大学理学部准教授 学術博士
佐藤 俊平:(独)水産総合研究センターさけますセンター研究員 博士(理学)
橋 洋:(独)水産大学校助教 博士(水産科学)
武島 弘彦:東京大学海洋研究所特任研究員 博士(農学)
竹花 祐介:基礎生物学研究所日本学術振興会特別研究員 博士(理学)
向井 貴彦:岐阜大学地域科学部准教授 博士(理学)
山本祥一郎:(独)中央水産研究所内水面研究部主任研究員 博士(水産学)
横山 良太:北海道大学北方生物圏フィールド科学センター学術研究員 博士(水産科学)
淀 太我:三重大学大学院生物資源学研究科准教授 博士(学術)
渡辺 勝敏:京都大学大学院理学研究科准教授 博士(水産学)