小さな酒場の物語が、開国につながる背景へと広がってきました。目付役鳥居耀蔵は、風野氏の処女作からのキーパースンですが、この物語では彼の怪物性よりも、奥深くにあるやわらかな心が描かれてゆきます。酒場の初代女将であった、おこうの夫、戸田吟斎を幽閉し、巴里の事情を聞きだそうとするのも、愛しいおこうの口から出た「愛と自由と平等」の背景を知りたいからではないでしょうか。
また倒幕をもくろむ大塩平八郎も隠れキリシタンたちを扇動し、味方につけようとしています。海のかなたからのとどろきが、そろそろこの時代の終焉を告げ知らせているようです。
という時代を背景に、あいかわらず小さな謎解きや生活のこまごまとしたエピソードが語られます。除夜の鐘を均等の間隔でつく方法とか、東海道を三日で往復すると豪語する飛脚屋どうしの対決とか、淡々と語られているのに、それを浮かべている時空の広やかさのせいか、忘れられません。
おこうのパトロンであった三人はそれぞれにこうした小さな事件にかかわります。前景の人物たちの胸あたたまる日常と、後景をなす大きな時代のうねり。その重奏する音楽が、最近の風野作品を深くしています。
大きく深呼吸をしたくなる、そんな時代の息吹が感じられる第四作です。