声楽曲は好きでよく聴きますが、その中でも森 麻季さんのこの『涙の流れるままに A HEALING COLLECTION』はお気に入りの一つです。
美貌でスタイルは良く、声質も素晴らしいリリコ・レッジェーロで、コロラチューラ・ソプラノとしても優れた技巧を持っている実力のあるソプラノです。四半世紀前に日本でも人気を博したキャスリーン・バトルの声質に似ており、高音の伸びは特筆すべき資質を感じました。
彼女は実に音程もよく、正確なピッチとヴィブラートの少ない歌唱が心地よく耳に響きます。今回の選曲のようにバロック音楽にはその特徴が特に生きるように思っています。
アルバム・タイトルとなったヘンデル「涙の流れるままに〜《リナルド》より」の清らかな美しさは絶品です。イタリア語の発音の子音も綺麗で、母音の響きも美しく、バロック歌唱特有の装飾音符の処理も実に自然でステキなものでした。
通常は混声4部で歌われるモーツァルト「アヴェ・ヴェルム・コルプス」をソプラノ・ソロで歌っています。ラテン語のテクストに天才モーツァルトが素晴らしいメロディとハーモニーをつけた名曲ですが、森さんの歌唱で一般的に親しまれるようになれば嬉しいですね。ソプラノ・パートの歌唱法のお手本と言えるでしょう。
バッハ「愛ゆえに主は死にたもう〜《マタイ受難曲》より」の敬虔なアリアもまた絶品でした。ドイツ語の語尾の子音も明瞭で、歌詞と響きを大切にする歌唱法がたまりません。頭声による弱音の響かせ方は音大生の見事なお手本になるでしょう。
大竹くみさんのオルガン伴奏にのせて歌われるカッチーニ「アヴェ・マリア」も清らかで、これまで聴いてきた多くの歌手の中でも最高位に位置するような名歌唱でした。母音唱法の高音の響きの美しさだけでなく、哀愁を帯びた感情表現が巧みでリスナーの心を激しく揺さぶるもので、たまりません。
久石譲「Stand Alone - NHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」メインテーマ」も収録してあり、多くのファンの期待にこたえられる仕上がりとなっていました。
その他の曲も個別に記す字数が尽きましたが、何れも高水準の出来栄えで選曲もよく、声楽曲を初めて聴く人にも是非おススメしたいアルバムです。