「ヒーローは常に社会や組織のアウトサイダーである」という、神話以来の物語のステレオタイプに対し、体制内で秩序を維持しようとするアンチ・ヒーローを書き続けた眉村卓の傑作長編。彼の一連の「インサイダー文学」の頂点であるだろう。
自らの使命と良心に忠実に、決して容易ではない事態に立ち向かう主人公の姿勢に胸を打たれる。社会や世界を管理し維持することにおいて、いかなる問題が生じ、それをどのように処理することが適切であるのかが生き生きと描かれる。困難を前にして主人公は決して逃げず、失敗して言い訳をすることもない。この物語で追求されているのは、「管理する人間」の理想像である。物語自体も、異世界を舞台にして、謎の先住民の存在や利益優先で動く企業、住民の暴動など展開はめまぐるしく決して飽きさせない。そして、利権や派閥という動機によって行動するのではなく、この物語の主人公のような信念と思考を持つ政治家がこの国に一人でもいてくれれば良かったのに、と思わずにはいられない。
なお、短編集『司政官 全短編』と併せて読むのが望ましい。また、これも「司政官シリーズ」の『引き潮のとき』の文庫化も望まれる。
発言や行動の理由を詳しく語ってくれること、組織内で秩序を維持しようとする人間が主人公であること、この二点において『消滅の光輪』をはじめとする眉村卓の「司政官シリーズ」は、有川浩の『図書館戦争シリーズ』と酷似する。『図書館戦争』が面白いと思うならばこの物語を読んでみる価値はある。