衝撃的な本だ。届いて梱包を開けてから、一気に最後まで読んでしまった。
「凶悪」(新潮文庫)「新潮45」編集部 も併せて購入したが、本書に比べれば実にあっさりとしたものだ。
主犯・松永太は、7名の命を奪った連続殺害において「直接」手を下していない。にも関わらず、拉致監禁と電気ショックによって洗脳した被害者(子供を含む)家族同士を互いに殺させ合った手管は悪魔に等しい。まさにハンニバル・レクターを思わせるサイコパスだ。
しかしながら、松永は逮捕後も否認し続け、驚くことに親戚中が縁を切ったために一審は松永の人間形成が解明できないままに終わった。著者は松永の親戚筋から取材拒否されたこともあり、共犯で元愛人にして被害者同様奴隷状態にあった緒方純子を中心に本書を書き進めている。彼女も松永によって人格破壊を受けた「被害者」でもあり、著者はDV関連の本を地元記者に勧めたことから最終的にこの緒方と交流を持つに至る。
それはそれで意義あることであるだろうが、著者が緒方中心に書き進めるあまり、松永らに6年間拉致監禁、虐待を通り越した拷問と陵辱を受けた上に父親を殺害された少女の気持ちをスルーするかのような流れで腑に落ちない。
十代というもろい年齢にある少女が実の父親の遺体を自らの手で解体・証拠隠滅することを強いられた場面で、「ここで信じがたい事実を指摘しておきたい」と、少女への気遣いではなく緒方が妊娠中であったとことに言及するのだ。著者もまたこの異常な事件を追ううちに「些細なこと」は見過ごすようになったのだろうか?(逆に、あまり触れなかったのは少女への配慮かもしれないが)
実は本書を読み終えて間もなく、少女(現在は26歳)が松永の支配下にあったため、犯罪被害者給付金の申請が出来なかったことへの不支給裁定取り消しを求めていた判決が2010年7月8日に報じられた。事件はまだ終わっていないだけでなく、少女にとって一生その影は続くのだろう。
本書は労作ではあるが、また別の角度からのドキュメントが望まれる。