「小公女」「小公子」「秘密の花園」等で有名な、イギリス生まれでアメリカで成功した女流作家・バーネットの作品です。
軽い気持ちで読み出したのですが、これが抜群に面白い!!物語にも細部の描写にも無駄がない!!昔からすごいとは思っていたけれど、この作品を読んでバーネットは本当に一流の作家だなと改めて思いました。
物語の舞台はイギリスのロンドン。聡明で勇敢な主人公マルコ、その父で気品と威厳を兼ね備えたステファン、二人に恭しく仕える謹厳実直な老ラザルスが、何らかの理由でロシアから引越しをしてきた所からお話は始まります。彼らの故国は実在しない国・サマヴィアという設定ではありますが、三人とも、勇敢や冷静、理知と言った極めてイギリス的な美徳に溢れています。
ロンドンの裏通りに酒癖の悪い父親と暮らしている足の悪い少年ラットは、不自由な体に英雄の心と機略、不屈の意思を宿しており、マルコの親友となります。辛い生い立ちのために激しく複雑な感情の持ち主であるラット少年は、イギリスの詩人・バイロンを彷彿とさせます。ラットを見ていて、バイロンもきっと、女の私には想像も付かないほどに心から軍人に憧れていて、生まれつき足が悪くて詩人になったりしたけれど、最後は貴族の誇りをもって自由の敵と戦い、軍人として死にたかったのかもしれない・・だからミソロンギに行ったのかもしれない、と思ったりしました。
ラット少年は非常に人間臭く、それだけに危うさも持っていて、個人的には上巻読了時点で最も気になる人物です。
物語の筋もとても魅力的。主人公の一家は世界各地を転々とし、質素な目立たない生活をしながらも貴族のような物腰を身に着けていて、大きな秘密を持っている様子。政情不安定なマルコ達の故郷サマヴィアと、平和な国を望むサマヴィア人たちの希望「消えた王子」を巡る謎が、ぐいぐい読者を物語に引き込みます。
ロンドンの裏通りで遊ぶ少年たちの心理描写も非常に鋭く描かれていて普遍性があるし、マルコの「訓練」の描写も細かく具体的で、いかにもあの年頃の男の子がしそうな工夫がこらされます。
これは、子どもに読ませたい本です。バーネットの作品は、上流階級の人間が多く登場するためか全体に極めて品がいいので、「長くつしたのピッピ」的な活きの良さはありませんし、好みはあるでしょうが、私個人としては、子どもの頃にこの本を読まされたかったですね。
下巻が楽しみ。