K中間子の奇妙な振る舞いから発見されたCP対称性の破れが、どう発展して「クォークの世代」に行き着くのかを知りたかったのですが、どうしてもこれまで読んできた「数式のない書籍」ではわかった気になれませんでした。
仕方なく専門書を見てみると、ディラック方程式やラグランジアン密度など、高度に専門的な内容を理解しなければなりません。啓蒙書と専門書のギャップが大きすぎるのです。さすがに専門家になるつもりはないので、いろいろな本を探しているうちにたどり着いたのがこの本でした。
この本には適度に数式が使われており、それが理解を助けます。最も核となる第4章を何度か読み返し、ほかの文献と見比べているうちに、全体像がわかりました。寡聞にして、この本以上に「CP対称性の破れ」をわかりやすく説明した本を知りません。(もう少しラグランジアン密度についての言及があれば、複素行列がどのようにCP対称性と関係するかがわかるのに、と残念に思います)
ほかの人のレビューを見ると、かなり難しいという評価で、ちょっと意外でした。おそらく新書サイズには珍しく、数式が出てくるからだと思います。確かに、複素数や行列を理解できないと、第4章で挫折するかもしれません。
しかし、「CP対称性の破れ」は純粋に数学的な特徴による現象なので、数式を一切使わずに理解することは、おそらく不可能です。とはいえ要求されるのは、「高校生レベルの代数」ですので、怖気づくほどではありません。高校数学が身についていない人は、「CP対称性の破れ」の雰囲気しか理解できないでしょう。
逆に言えば、この程度の数学的知識でも、曲がりなりにも理解できる方が驚きです。そのため、「高校数学がわかれば誰にでも発見のチャンスがあったのかな?」と思ったのですが、素粒子の高度な知識も必要で、単純ではありませんでした。誰よりも早くこの性質に気づいたことは、やはりノーベル賞に値すると感銘を受けました。