かつて『アンダーグラウンド』でオウム真理教の破壊的な物語と対峙した村上春樹は、それに拮抗(きっこう)するだけの力をもつ物語の再興を自らの命題とした。その命題へのチャレンジといえるのが本書である。『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の内的世界と、『ねじまき鳥クロニクル』で追求した歴史と個の関係は、より深化し、子どもの夢と大人たちのつくりあげた現実の狭間にある迷宮のなかで、さ迷い、成長していくひとりの「少年」へと結実した。そして、ギリシャ悲劇における親子のあり様や、『源氏物語』に登場する生霊などの文学的モチーフが巧みに取り入れられたストーリーは、強力な吸引力をもって読者を離さない。
読み手は、ただ作品がもつ物語の力に身を任せていれば、多彩で奇妙なキャラクターたちや、息をもつかせぬ展開が、充実した読書体験を約束してくれる。そして読後、不思議な感動を味わい、涙を流すことになるだろう。多くの悲しい運命を背負った人たち、たくさんの「死の予感」が涙を誘うのではない。この物語のなかで、子どもから大人へと成長するにしたがい失ってきたものを発見するのだ。そうした自分にとって親密な記憶が、涙とともにとめどなくあふれてくる。(中島正敏)
『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(1985)『ねじまき鳥クロニクル』(1994)に続く、1600枚の大作です。
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下巻を読み終えての感覚としては村上作品のわりには、というかなんというか・・・もちろん面白いのではありますがすっきりしすぎというか「え?これでおわり??」と、ページを繰りつつ思ってしまいました。本当はもっと長かったのをみじかくしたのかしら?とおもうくらい。確かに、村上氏ならではの時代の交差や現実にはあり得ないようなものを、たしかに物語の中では存在しているときっちり感じられる描写など力を感じますが。
面白くないわけではないのです。面白いです。やっぱり物語の中に引き込まれるし。けれど欲を言えばもう少し物語の脇の「物語」の部分を見せて欲しかったなあと思います。
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