飼育技術や研究についての記述は、実際に行われていることを記録したものとして、現状を知る上で重要な資料となるだろう。しかし、ところどころに出てくる福祉に関する記述は、あまりに現状肯定に走りすぎているのではないか。なかでも「繁殖ができるスペースがあるプールならば我慢してもらいたい」などという現名古屋港水族館館長の言葉は、とても現在の世界で考えられている動物福祉を考慮した発想とは言えない。つまりは、本書は飼育し利用するということの現状を理解するためには有効だが、より良い飼育を考えるためにという観点からは得るものは残念ながらほとんどない。この程度の発想では、鯨類の飼育反対論者を説得することはできないどころか、指摘されている問題への応えとして程遠いものと言えるだろう。